広報誌「奏」Magazine SOU

大阪国際室内楽コンクール2023第1部門第1位

クァルテット・インダコ インタビュー

インタビュアー:後藤菜穂子

大阪での優勝を新たな出発点に
美しい音楽を世の中に届けたい

広報誌「奏」60号掲載
聞き手:後藤菜穂子(音楽ライター)

5月の大阪国際室内楽コンクールの弦楽四重奏団部門において、スタイリッシュかつ成熟した演奏を聴かせ、優勝に輝いたイタリアの実力派、クァルテット・インダコ。ちなみに「インダコ」というのはイタリア語で「藍(色)/インディゴ」を指す言葉なのだそう。

とりわけ本選でのシューベルトの弦楽四重奏曲第15番は完成度の高い演奏で、聴衆を大いに魅了した。今回の「グランプリ・コンサート2023」でも彼らのシューベルトに期待が高まる。コンクールの思い出や今回のツアーでの演奏曲目、グループとしてのこれまでの道のりなどについてお話をうかがった。

優勝団体記者会見直前、笑顔で写真撮影に応じてくれた

——大阪国際室内楽コンクールを振り返って、もっとも思い出に残っていることは?

挙げきれないほどたくさんありますが、初めて住友生命いずみホールで演奏できたことは最大の思い出のひとつです。すばらしい音響、美しい会場、親切なスタッフ、そして演奏後いつも声をかけてくださった聴衆の方々——そのおかげで忘れられない体験となりました。幸運なことに、私たちは入念に準備してきた曲をすべて披露できたわけですが、それでも一週間にわたるコンクールの間ずっと集中を保つことは容易なことではありません。だからこそ、結果発表で私たちの名前が呼ばれたときにはすべての感情があふれだし、私たちの努力がようやく報われたと感じたのでした。

2023年5月18日 1位と判った瞬間

——特に記憶に残っている演奏はありますか?

それはクァルテットにとって答えづらい質問です。なぜなら、それぞれの奏者が違った印象を持っていますし、クァルテットという芸術形態の性質上、私たちは何かに完全に満足するということがないからです。

それでも敢えて振り返るならば、1次予選の初期ベートーヴェンとウェーベルンの小品は繊細さが求められる曲目でしたので、出だしはやや慎重でしたが、ホールに慣れてくるにつれて自信や自由さが出てきたと思います。本選ではコンクールであることを意識せずに、お互いによく視線を交わし、対話し、コミュニケーションを取りながら、一瞬一瞬を大切にして美しい演奏を心がけました。

3次予選舞台裏

——ファイナルにシューベルトの弦楽四重奏曲第15番を選んだ理由は?

シューベルトは私たちを導き、グループとしてのアイデンティティを与えてくれた作曲家の一人であり、コンクールでもっとも私たちらしさを出せるのはこの曲だと思ったのです。私たちはシューベルトの美的世界に親近感を抱き、その旋律や情景の世界を愛しく思っています。ロマン主義音楽の原点ともいえる音楽は民謡とも共通点があり、私たちはそうした彼の音楽のもつ魔法と純真さを描き出すことを目指しました。

本選演奏

——コンクール中の雰囲気はどうでしたか?

とてもすばらしい雰囲気で、出場者同士のネガティヴで攻撃的な競争心もなく、自分たちおよび人々のために美しいものを創り上げようという姿勢が感じられました。私たちも他のグループの演奏を興味深く追っていましたし、こうした音楽をする喜びをコンクールで体験する機会は過去にはないものでした。しかも審査委員たちもそうした要素を重視しているように思いました。

——クァルテット・インダコは2007年にフィレンツェのフィエーゾレ音楽院で結成されたとうかがっています。以来、メンバー交代を経ながら活動を続けてこられたわけですが、どんな道のりでしたか?

長い道のりでしたが、つねに友情とお互いへの敬意、そしてグループとしての成長を大切にしてきました。過去のメンバーとも家族のような友情でつながっており、コンクールの間も各ステージのあとに応援のメッセージを送ってくれたり、またイタリアの朝4時に起きてライブ配信を見てくれたりと心強かったです。しかし何よりも私たちを結びつけてきたのは、弦楽四重奏という芸術に対する深い愛情です。今の世の中、社会における芸術の役割を軽視する風潮があり、金銭的にもけっして楽ではありませんが、私たちはこの芸術に心を捧げてきました。その意味で私たちはこのコンクールを新しい出発点と見なし、改めて自信をもって美しい音楽を世の中に届けていきたいと思っています。

——グループにおける4人の関係および特性について教えて下さい。

文豪ゲーテは弦楽四重奏について「4人の理知的な紳士が交わす素敵な会話」だと語り、またパオロ・ボルチアーニ[イタリア弦楽四重奏団の第1ヴァイオリン奏者]は「16本の弦をもったひとつの偉大な楽器」と述べていて、私たちはそうした言葉を理想としつつ取り組んでいます。4人の関係はその時々で変化しますが、お互いに聴き合い、尊敬し合い、柔軟なリーダーシップをもった民主主義的なグループでありたいと思っています。

そのなかでエレオノラ・マツノ(第1ヴァイオリン)は、私たちをいつも音楽の誠実さと美しさへ引き戻してくれる存在です。イダ・ディ・ヴィータ(第2ヴァイオリン)ジャミアング・サンティ(ヴィオラ)は、対話における一体感を作り出し、全体をうまく結合させる役割を担っています。他方、コジモ・カロヴァニ(チェロ)はいろんなアイディアを出したり、プロジェクトを考案したりすることが好きで、グループに違った視点をもたらします。

——「グランプリ・コンサート2023」で演奏される曲目についてお話いただけますか?

すでにお話ししたように、シューベルトは私たちにとって深い結び付きをもつ作曲家であり、本選で演奏した弦楽四重奏曲第15番第14番《死と乙女》を取り上げます。また私たちが大好きな20世紀前半のフランス音楽から、ラヴェルの弦楽四重奏曲を選びました。長年演奏してきた曲であり、いつも満ち足りた気分にさせてくれます。3次予選で弾いたベートーヴェンの弦楽四重奏曲作品74《ハープ》は古典の金字塔であり、コンクールへの敬意をこめて選びました。

あとの2つの作品では、クァルテット・インダコが核としているレパートリーのなかから別の面を聴いていただきたいと思って選びました。ひとつは現代の作曲家ペーテリス・ヴァスクスの弦楽四重奏曲。私たちはこの曲をご本人の前で初めて演奏したのですが、とても心動かされたと言ってくださいました。他方、ボッケリーニはイタリアの古い時代の音楽ですが、私たちの流浪のイタリア人魂を象徴する曲としてよく演奏しています。再び旅ができるようになった今、こうした多様なサウンドを通して、日本の皆様を美しい旅にお連れできたらと願っています。

——日本滞在中に体験したいことは?

あらゆる体験をしたいですし、あらゆる場所を見て回りたいです!もちろん一生かけてもすべてを見ることはできませんし、ましてや理解することもかなわないわけですが。実はコンクールの終了後、私たちは日本にさらに10日間滞在し、わが国とはまったく異なる世界を見て回り、楽しい時を過ごしました。今回の滞在でも神社やお寺、京都の路地、お城や博物館などを訪れたいですね。でもそうした名所にかぎらず、小さな居酒屋も日常の風景もすべて新鮮に感じます。ツアーの合間にはそうした日本の空気をたっぷり味わいたいと思います。

グランプリ・コンサート2023スケジュール

11/1(水) 19:00  鳥取   A 鳥取市文化ホール
11/3(金) 14:00  静岡   B 沼津市民文化センター
11/4(土) 14:00  三重   ※ 三重県文化会館
11/6(月) 19:00  大阪   B 住友生命いずみホール
11/8(水) 19:00  富山   A 富山県高岡文化ホール
11/11(土) 14:00  熊本  A 益城町文化会館
11/12(日) 14:00  大分  B くにさき総合文化センター
11/14(火) 19:00  宮崎  A 小林市文化会館
11/17(金) 19:00  神奈川 B 横浜市鶴見区民文化センター
11/18(土) 14:00  神奈川 A 海老名市文化会館
11/19(日) 14:00  東京  A 浜離宮朝日ホール

プログラム

【A】
P.ヴァスクス:弦楽四重奏曲第5番
L.v. ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第10番 変ホ長調 「ハープ」 Op. 74
F. シューベルト:弦楽四重奏曲第14番 ニ短調 「死と乙女」 D810

【B】
L. ボッケリーニ:弦楽四重奏曲 op.44-4 ト長調 G.223「ティラーナ」
M. ラヴェル:弦楽四重奏曲 ヘ長調
F. シューベルト:シューベルト:弦楽四重奏曲第15番 ト長調 D887

【三重】
P.ヴァスクス:弦楽四重奏曲第5番
L.v. ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第10番 変ホ長調 「ハープ」 Op. 74
F. シューベルト:シューベルト:弦楽四重奏曲第15番 ト長調 D887