大阪国際室内楽コンクールをもっと楽しむ!
続 そこがききたい!
室内楽コンクールのナゾ
渡辺 和(音楽ジャーナリスト)
3年に一度の室内楽の一大イベントが、まもなくやってくる!大阪国際室内楽コンクールって、どうやら世界的な音楽団体が集まるすごいコンクールらしい。だけど室内楽ってちょっと敷居が高くて、どうやって楽しんだらいいのかよくわからない……。
そんな方を対象に、初心者の方でもコンクールを楽しめる鑑賞のヒントをお届けします!世界の室内楽コンクールを取材し、コンクール専門委員も務める音楽ジャーナリスト・渡辺和さんに、素朴な疑問をぶつけました。
渡辺 和(音楽ジャーナリスト)
国際基督教大学博士課程前期修了。 室内楽や現代音楽を中心にフリージャーナリストとして活動。演奏家インタビュー、コンクールレポートなど「音楽の友」等に寄稿。著書に『クァルテットの名曲名演奏』(音楽之友社)、『ホールに音楽が刻まれるとき』(ぎょうせい)、共著に『黒沼俊夫と日本の弦楽四重奏団』(柏の森書房)他。
★コンクールの演奏を聴衆としてより楽しんで聴くには、事前にどんな予習をしたらよいと思いますか?
クラシック音楽では、演奏される音楽の全てが「リブート」です。新しい作品であれ、ある意味、どれも「リメイク」。勿論、何も知らずに接してOKな傑作名演もありますが、芸術の性格上、より深く楽しむには旧作旧演を知る方がいいのは言うまでもないでしょう。
じゃあ少しは予習をしておこう……とポケットからスマホを取り出した貴方、音楽を検索する際に、演奏者で探しますか、それとも曲で探しますか?
アーティストで探すというなら、大阪にやってくる16団体の名前をまず入れてください。煩雑かもしれませんがちょっと我慢して、欧文表記での検索がお薦め。いくつもの映像がアップされるでしょう。Z世代らしく楽しそうに練習するノリの良い姿や旅の様子など、人柄が見えるクリップも。
いちばんの予習は、グループが参加したコンクールでの演奏を収録したライヴです。昨今の大会は、演奏をストリーミングでネットに流し、無料で見直し可能なアーカイヴに保存しています。これから演奏する団体の数ヶ月前を確認し、どんな若者達で、どんな立ち居振る舞いか知るだけで、親近感がグッと増すはず。「推し」が見つかるかもしれませんね。
曲で探す派なら、いずみホールで鳴る作品の予習あるのみ…と言いたいところですが、なんとラインナップは総計60以上!これさえ押さえれば大丈夫、という重要作をピックアップしておきましょう。曲の流れを知るだけで、5月を待つ気持ちは違うはず。
| 弦楽四重奏 |
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| ピアノ三重奏 |
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| ピアノ四重奏 |
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あまり馴染みがないピアノ四重奏は、定番名曲でピアノ三重奏との違い、とりわけヴィオラの響きに注目。ピアノ三重奏は、ピアノの音量バランス。名も知らぬワインベルクのピアノ三重奏でも、意外にノリノリではまってしまうかも。現代曲はオンラインでは拾い切れない要素も多く、ただ難解に感じがち。いっそ予習なしでライヴのインパクトに接するのもありかも。
まだ余裕があるぞ、という方は、本選に並ぶベートーヴェンやシューベルトの超大作に挑戦。ベートーヴェン弦楽四重奏曲第12番 作品127、シューベルトピアノ三重奏曲第2番 D929を聴いて本選に臨んでください。
★大阪国際室内楽コンクールは、世界的に見てどのような格付けにあるのでしょうか?他の世界各国の代表的な室内楽コンクールについても教えてください。
コンクール大流行の昨今でも、室内楽専門の国際大会はそれほどの数はありません。興味深いことに、国際音楽コンクール世界連盟が課す細かい規定に適ったメイジャーな国際弦楽四重奏コンクールは、本場欧州では各国にひとつ、あとはアフリカを除く各大陸にひとつずつ、というのが現状です。
列挙すれば、大阪フェスタの実質上の創設者でもあるヴァイオリニストのユーディ・メニューイン卿が始めたイギリスのウィグモアホール国際弦楽四重奏コンクール(旧ロンドン国際)、フランスのボルドー国際弦楽四重奏コンクール(旧エヴィアン国際)、イタリアQの名第1ヴァイオリン奏者を顕彰するイタリアのパオロ・ボルチアーニ弦楽四重奏国際コンクール、ドイツは放送局連合が開催するミュンヘンARD国際音楽コンクールの弦楽四重奏及びピアノ三重奏部門、米大陸はカナダのバンフ国際弦楽四重奏コンクール、豪州は大阪同様に弦楽四重奏とピアノ三重奏両部門があるメルボルン国際室内楽コンクール、アジアの大阪国際室内楽コンクール。賞金規模や過去の実績からこれらが「世界7大大会」と呼ばれ、それぞれが3年から4年に一度の開催。結果として、毎年世界のどこかでひとつかふたつのメイジャー大会が開催されています。
ちなみに2026年の弦楽四重奏大会は大阪とミュンヘン、ピアノ三重奏&四重奏は大阪のみです。
★演奏団体はコンクールに向けどんな努力をしているのですか?普段はオーケストラ活動もしている?室内楽コンクール出場は時間的・精神的に大変なことなのでしょうか。
現在のメイジャーな室内楽コンクールでは「楽器が上手な若者が集まり、課題曲を練習し超名演を披露、大コンクールで優勝する」というドラマのようなことは、まず起きません。
メイジャーな室内楽コンクールに招聘されるグループは、同じ顔ぶれが数年に渡り年間300日以上集まり、限られた楽譜をひたすら練習し続けた、極めて特殊な経歴の音楽家たちです。2,3年の研鑽で国内大会、国際大会参加が見えてくるのは4,5年目くらいから、が常識でしょうか。世界の主要オーケストラが「オーケストラ・アカデミー」などの名称で設置する若手奏者向け期間限定の実践指導との掛け持ちはあっても、多忙なプロの楽団に正規雇用されつつ室内楽練習に明け暮れるなど、物理的に不可能です。
往々にして、学校で出会った同世代が室内楽での単位獲得を目的に始める室内楽漬け生活ですが、家族や恋人よりも長い時間を一緒に過ごし、音楽性が固まっていく重要な時期を共有するのです。始まりは仲良し集団でも、それで済むはずはありません。室内楽を学ぶことで変わっていく自分を楽しめる人ばかりでもないでしょう。大阪の舞台にまで到達しているのは、そんな精神的な重圧に耐えたタフな若者たちなのです。
★室内楽コンクールを経て、演奏団体はどんな未来を目指していくことになるのでしょうか?
個々人の奏者としての能力や才能を見極める独奏コンクールとはまるで違い、室内楽コンクールは音楽家のキャリアの指標となるために存在する教育機関です。
まずは開催文化圏からの参加が前提の国内の室内楽コンクールで力試し。日本では、宗次ホール弦楽四重奏コンクールと秋吉台音楽コンクール室内楽部門のふたつがその役割を果たしています。次に、世界のどの文化圏からの参加も可能なサポートが前提の大規模国際大会へと駒を進めます。なお、「学生時代を終え一度は社会人になった音楽家がグループを結成する」というケースも配慮し、殆どの国際大会は参加可能年齢を独奏コンクールより遙かに高く設定、平均30代半ばまでとしています。
それぞれのレベルで、室内楽コンクールの結果はキャリアの大きなターニングポイントとなります。室内楽グループとすれば、コンクールの良い結果ははじめの一歩。メイジャーな国際大会で結果を出して数年で年間に50から80回のコンサートを作れれば、室内楽に専念するヴェンチャー・ビジネスとしてやっと成功への軌道に乗ったと言えるでしょう。尤も、そのレベルにまで至れるのは、5年から10年に数団体あるかないかの超狭き門ですけど。
室内楽コンクールをきっかけに世に出た著名ソリストは、恐らく過去にひとりもおりません。ですが、オーケストラのコンサートマスターや首席奏者に目を向ければ、室内楽コンクール経験者はたくさん。現実的なことを言えば、室内楽コンクールは現存する最高のオーケストラ首席奏者育成機関なのです。
例えば、2008年大阪国際コンクール第2部門で優勝したダリ・ピアノ・トリオのヴァイオリン奏者ヴィネタ・サレイカは、後にアルテミスQの第1ヴァイオリンに抜擢され、更にベルリンフィル初の女性コンサートマスターへと転身していきました(今年のミュンヘンARD大会弦楽四重奏部門審査委員長を務めています)。日本でも、民音室内楽コンクール(東京国際音楽コンクール)で優勝したハレーQやイグレッグQから豊嶋泰嗣や矢部達哉、ミュンヘンARD弦楽四重奏部門入賞のウェールズQからは水谷晃という名コンサートマスターを生んでいます。首席ヴィオラやチェロも枚挙に暇がありません。間接的ではありますが、アンサンブルを整える技術や音楽性を高いレベルで評価する場として、室内楽コンクールには音楽界に大きな貢献をしているのです。
メイジャーな室内楽コンクールとは一種のオーディション。プロとして室内楽団を続けていく潜在能力や可能性を先輩達が見極め、自分らの判断で次の道を選んでいくための場所なのです。
前回2023年のコンクールの際に「奏」で掲載し、
大きな反響があった記事もお読みください👀
\ こんなQ.への回答が載ってます /
Q. 拍手をしたり、スタンディングオベーションをしてもいいのでしょうか?
Q. ベルリンで勉強している私の友人の弦楽四重奏団は、第1ヴァイオリンが韓国系カナダ人で、第2ヴァイオリンがフランス人で、ヴィオラが日本人で、チェロがモナコ国籍のロシア人です。大阪に参加すると、どこの国の代表とされるのでしょうか?
Q. コンクールは参加団体全部を聴かないといけないのでしょうか?
Q. コンクール部門を一日だけ聴くなら、どの日がお薦めですか?