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広報誌「奏」vol.61

レオンコロ弦楽四重奏団 インタビュー

逢坂聖也(音楽ライター)

―僕らがクァルテットへ持っている情熱を次の世代にも伝えていきたい

取材・文:逢坂聖也(音楽ライター)

(c)Peter Adamik

パンデミック後に現れた若いクァルテットがヨーロッパを席巻している。ベルリン芸術大学の学生を中心に結成されたレオンコロ弦楽四重奏団だ。2021年のパオロ・ボルチアーニ国際弦楽四重奏コンクールで最高位、翌22年にはウィグモアホール国際弦楽四重奏コンクール、ボルドー国際弦楽四重奏コンクールで優勝という圧倒的な成果を収め、現在、各地でのデビューが目白押し。レオンコロとは勇敢な心を意味する英語、「ライオンハート」のエスペラント読みで、メンバーのシュヴァルツ兄弟が愛読した冒険物語の題名から採られたという。4月29日の来日公演を前にヴァイオリンのヨナタン・昌貴・シュヴァルツ、ヴィオラの近衞麻由がインタビューに答えた。

―レオンコロ弦楽四重奏団が結成された経緯について教えてください。始まりはどんな風だったのか。

近衞:4人のうち3人がベルリン芸術大学で室内楽を学んでいました。ヴァイオリンの先生が元アルテミスQのハイメ・ミュラーだったんです。チェロのルカスはライプツィヒの大学に行っていたんですが、アルテミスQに室内楽を習えるんだったらって言ってベルリンへやって来て、それでメンバーが揃いました。でも初めから続けようと思っていたわけではなくて、その頃はまだ、楽しみながらレパートリーを増やしていたという感じです。2019年の夏、4人でドイツ南部のヴァイカースハイムで、ミュラー先生のマスタークラスを受講しました。そこでアルバン・ベルクQのギュンター・ピヒラー先生と出会いマドリッドへ呼んでもらったのが本格的な始まりです。

近衛麻由 ⓒ栗山主税

―そのわずか2年後にはパオロ・ポルチアーニで1位なしの2位。翌年にはウィグモアとボルドーで立て続けに優勝です。素晴らしい成果ですが新鮮に感じたことや、また戸惑ったことも多かったのでは?

近衞:ここまで早く行けるとは考えてもいませんでした。コンクールもまさかボルチアーニから受けるとは思いませんでした。その前に考えていたコンクールがコロナのためにキャンセルになって、私たちはコンサートでほとんど弾いた経験もないままボルチアーニを受けたんです。だから私たち全員、あそこまで行けたことにびっくりしました。

ヨナタン:ポルチアーニで1位じゃなかったことに対して実は感謝しているんです。あの頃、僕たちは成長過程で、まだ何の準備もできていませんでした。だから翌年にウィグモアとボルドーで1位を獲ってキャリアをスタートできたことが、本当に良かったと思っています。

―コンクールに関する話の中で、「2年間クァルテットをやっても結果が出なければ続けなかったかも知れない」と語っていましたね?

近衞:そのことは最初にメンバー全員で話し合っていました。2年間コンクールをやって、結果が出せなければ、もう一度話し合って、そこで続けるかやめるか決めようって。将来のことを考えてリミットを区切ることは大事だと思います。幸い結果を出すことができましたけど。

—プレッシャーもあったでしょう?

ヨナタン:ボルドーでは特にすごいプレッシャーがありました。というのも大会の数か月前に僕はベルリンフィルのトレーニングプログラム「カラヤン・アカデミー」を辞めて、オーケストラではなくこのクァルテットでやっていこうと決めたところだったんです。すごく難しい選択でした。だからそれが正しい判断だったと確信するためにも、ボルドーでは絶対に優勝しなければならない。そんなプレッシャーを感じていました。

―2020年からの2年間はパンデミックの時期でもありましたよね。そのことは活動に影響しましたか?

近衞:時間が溢れるほどありました。2020年には大学の授業やレッスンが全部なくなってしまいましたから。友達に教会の鍵を借りて毎日そこで練習していました。練習をガンガン、リハーサルを1日中やることができたんです。もう一生、あんな経験はできないと思います。

ヨナタン:あの2年間、僕らはずっと自分たちの音楽を育てることに集中できました。そのあいだは家族や政府からのサポートもあり、コンサートをやってお金を稼がなくてはならないというストレスからも解放されていました。振り返ってみればクァルテットとしてはポジティブな期間だったと思います。

ヨナタン・昌貴・シュヴァルツ ⓒ栗山主税

―英・ストラド誌(The Strad)に印象的な記事がありました。ギュンター・ピヒラーに初めて会った時に“あなた方は優勝しなければならない。さもなければチャンスはない”とまず言われた、と。これはどんな状況だったのですか?

ヨナタン:あの時のことはよく覚えています。ヴァイカースハイムのマスタークラスでのことでした。世界には弦楽四重奏団がとてもたくさんあって、コンクールも山のようにあるので、プロモーターやエージェンシーに見つけてもらうには、どこかで必ず1位を獲らなければ生き残れないと言われました。いきなり厳しい言葉だったので、僕はその時“クァルテットを諦めようかな”と思ったりもしたんですが、結局はこの言葉がモチベーションになったんです。

近衞:ピヒラー先生は自分が厳しいことを認めているんです。誰かが言わなくちゃならないことだから、自分が責任を持って言うんだっておっしゃってましたね。

ヨナタン:メンターとしてとても優れた人だと思っています。直接音楽のことではではないことでも話せますし、いつもアドバイスをいただいています。エージェンシーとどういう風にコミュニケーションを取るか、クァルテットの中ではどのような話し合いが必要か、そういうことまでも細かく教えてくれる方ですね。もちろん厳しい人なので、彼の性格や言葉に耐える心が必要です。でも生徒のことをすごく思う人だなと感じています。

―2022年にドイツの音楽事務所ジメナウアー(Simmenauer)と契約しましたね。このことで、これまではコンクールでの優勝が目標でしたが、それ以外のビジョンも見えてきたのではありませんか?

近衞:メジャーなマネジメントから声をかけてもらって、少し安心しました。コンクールは大事ですが、マネジメントがないとコンサートの仕事はできないから。大事なのはコンサートで認めてもらって、もう一度そこに招いてもらえること。契約はウィグモアの前だったんですが、ここまで短期間で来られたことは幸運だったと思います。

ヨナタン:現在の僕らの目標はより上手に弾いていく、コンサートをよりしっかりとやっていくことだと思っています。ツアーなども行いながらプロフェッショナルとしての在り方を身に着けていくことが課題です。というのも今、非常に時間が少なくなってきていて、コンサートが増えれば増えるほど練習する時間が減っている。時間の使い方を学ぶことが課題なんです。

―4月の来日公演のプログラムはウェーベルン、シューベルト、ベートーヴェン。3曲ともウィーンで作曲された作品ですが、聴きどころはどのあたりでしょう?

ヨナタン:特にシューベルトに見られるんですが、ウィーン特有の様式感があります。ハイドンやモーツァルト、ブラームスに至るまでウィーンの作曲家たちはこの独特の様式感を大切にしているので、それをしっかりと表現していきたいと思います。難しいのはこの様式感と自分たちの音楽とのバランスを取ることですね。

―この先、ずっとクァルテットを続けていって何年も経った時。その時にレオンコロ弦楽四重奏団はどんなことを実現していたいと思いますか?

ヨナタン:僕らの一番のゴールと言うか、将来において自分たちが成功したと思えるだろうことは、僕らよりももっと若い世代の人たちにクァルテットとして僕らと同じような道を歩んでもらえたら、ということです。いずれレオンコロ弦楽四重奏団も教育者として教えることになるのだと思いたいのですが、その時、先生としての喜びというのは、自分たちを超えるようなクァルテットを育てることじゃないでしょうか。今、自分たちがクァルテットに持っている情熱を若い世代に伝えていけたら、それが一番の成功じゃないかなと思います。

インタビュー風景 ⓒ栗山主税

公演日程

2024年4月29日(月・祝)15:00開演

会場

あいおいニッセイ同和損保 ザ・フェニックスホール

プログラム

ウェーベルン:弦楽四重奏のための緩徐楽章
シューベルト:弦楽四重奏曲第9番 ト短調 D173  
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第7番 ヘ長調 op. 59-1 「ラズモフスキー第1番」 

チケット料金

一般 5,000円/友の会 4,500円/学生 1,500円
シリーズ3公演セット券一般 13,000円/セット券友の会 11,500円

※セット券、学生券はザ・フェニックスホールチケットセンターのみ取り扱い(学生券は25歳以下、要学生証提示)

レオンコロ弦楽四重奏団(弦楽四重奏/ドイツ)
Leonkoro Quartet, String Quartet / Germany

ヨナタン・昌貴・シュヴァルツ (ヴァイオリン) Jonathan Masaki Schwarz, violin
アメリー・コジマ・ヴァルナー(ヴァイオリン) Amelie Cosima Wallner, violin
近衞麻由 (ヴィオラ) Mayu Konoe, viola
ルカス・実・シュヴァルツ (チェロ) Lukas Minoru Schwarz, cello


「レオンコロ弦楽四重奏団は、舞台の上で圧倒的な存在感を放つ。その白熱する音楽は、リスクを冒すことをおそれない。さまざまな楽曲、それぞれの響きに対するその共感力に、聞き手は驚嘆せずにはいられない。」(フランクフルター アルゲマイネ ツァイトゥング紙)
2019年にベルリンで結成。レオンコロとはエスペラント語でライオンハートを意味する。
2022年ボルドー国際弦楽四重奏コンクールで優勝。聴衆賞と若手聴衆賞を受賞。同年、ウィグモアホール国際弦楽四重奏コンクール優勝、さらに12ある特別賞のうちの9つを獲得。BBCのニュー・ジェネレーション・アーティスト2022-2024に選出。また、ユルゲン・ポント財団の室内楽賞も獲得し、奨学金を授与される。
その前年にはプレミオ・パオロ・ボルチアーニ国際弦楽四重奏コンクールを最年少で最高位の二位に入賞、観客賞も獲得(一位はなし)。同年、アリス・ザムター室内楽コンクール優勝。
リューベック音楽大学でハイメ・ミュラーに学び、2020年よりソフィア王妃音楽学校で、ギュンター・ピヒラーに師事。また、ベルリン芸術大学在学中、アルテミス・クァルテットのメンバーたちから熱心な指導を受ける。アルフレッド・ブレンデル、ラインハルト・ゲベル、ライナー・シュミット (ハーゲン・クァルテット)、オリヴァー・ヴィレ(クス・クァルテット)などの指導者から音楽的な感銘を受けた。
2023年秋にラヴェルの弦楽四重奏曲とシューマンの弦楽四重奏曲第3番を収録したCDデビューを果たす。
2023-2024年のシーズン、ベルリンフィルハーモニー、ケルンフィルハーモニー、フィラジェー・ブリュッセル、アムステルダム・コンセルトヘボウなどのホールでデビューを飾る。参加予定の音楽祭はラインガウ、パリ弦楽四重奏ビエンナーレ、ハイデルベルクの春など。また、英国リーズでアーティスト・イン・レジデンスを務める。

レオンコロ弦楽四重奏団公式ウェブサイト(日本語) https://leonkoroquartet.com/jp/